背中の痛みは、もう日常の一部となっていた。朝起きるたびに感じる鈍痛は、仕事に出かける時間までには麻痺するように薄れ、夜には再び強くなる。佐伯美咲は、自分が腰痛に悩まされる運命を受け入れたかのように、整骨院の広告に目を向けることすら避けていた。

「またですか?もう病院に行ってくださいよ。」同僚の言葉が耳に残る。決して悪意はない、それはわかっている。ただ、それを言われる度に、彼女は自分が怠惰な人間だと責められている気がした。「病院」と「整骨院」。美咲にとってそれらの場所は、自分の痛みを告白する場所であり、他人の手に委ねることがなんとなく屈辱的だった。

しかし、母の一言がその防壁を崩した。「そのまま放置して動けなくなったらどうするの?」年老いた母が心配して言ったその言葉に、美咲はいつもの反論をする気力さえ失った。彼女は無言でカバンをつかみ、整骨院のドアをくぐった。


整骨院の中は、意外にも温かみのある場所だった。スタッフの柔らかい声や、壁にかけられた「健康に関する豆知識」のポスター。それらが美咲の緊張をわずかに解いた。「初めての方ですね。こちらへどうぞ。」受付の女性が手渡した問診票に、自分の痛みの原因を記入するよう求められたとき、美咲はふいに手が止まった。「原因」なんてわからない。ただ、痛い。それだけだ。

問診を終えた後、施術室に通された美咲の前には、落ち着いた様子の男性スタッフが立っていた。「佐伯さん、長い間腰の痛みに悩まされているとのことですね。」彼の声はどこか音楽のように耳に心地よかった。「まず、お話を伺いながら体の状態を確認していきますね。」

彼は美咲の腰を丁寧に触診しながら説明を始めた。「腰痛の原因は一つではなく、姿勢や筋肉の硬さ、ストレスも関係していることが多いんです。佐伯さんの場合、お仕事で座りっぱなしの時間が長いことが影響している可能性がありますね。」

美咲はその言葉を聞きながら、無意識に職場での自分を思い浮かべた。デスクに座り、パソコン画面を見つめる自分の姿。背中が丸まっていることは知っている。ただ、直そうと思ってもいつの間にかまた元に戻っている。

施術が始まると、彼の手がまるで魔法使いのように滑らかに動いた。まずは硬くなった腰の筋肉をほぐし、次にストレッチを取り入れる。「少し痛むかもしれませんが、これが筋肉を柔らかくするために必要な過程なんです。」美咲は、その痛みの中にわずかな安心感を感じた。痛みを共有してもらえているような気がしたのだ。



整骨院を出る頃、美咲は少し軽くなった腰を感じた。痛みが完全になくなったわけではないが、体に一筋の明るさが戻ったようだった。「また来てくださいね。少しずつ改善していきましょう。」スタッフの声に、美咲は初めて「この場所が自分を助けてくれるかもしれない」と思った。

彼女は知らなかった。腰痛は彼女の体だけでなく、心に潜む何かにも向き合うきっかけを与えていたのだ。整骨院のドアが閉まる音は、美咲の新しい物語の始まりを告げていた。



背中の痛みあるかたはお気軽にご相談ください。原因の探索から今後の見通しなどお伝えします。

この記事の作成者

中西 将也

骨盤矯正や猫背矯正といった考え方にとらわれず、お客様の癖、つまり今の姿勢を活かしながら楽にしていくことができるような施術を行います!

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